2023年10月13日 (金)

小笠原のダンゴムシ、ワラジムシ。危機的な固有種

東京都小笠原諸島の森でダンゴムシを探した。

で、全然ダンゴムシがいない。

リクヒモムシの侵入で陸上等脚目相が崩壊しているのは本当らしい。

父島で採集して、固有種は発見できなかったがコスモポリタン種?と外来種は見つけられた。


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コシビロダンゴムシの仲間(Venezillo parvus?)

住宅地から森の中までどこでもいた

頭がオレンジでおしゃれ


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ヒメワラジムシ科の一種

これは森の中にいた

小笠原固有のハラダニセヒメワラジムシにみえたが、目があるので違うと思う


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モリワラジムシの仲間(Burmoniscus?)

なぜか森ではかなり少なく、海岸林にいる

海浜性ではないはず

足が速い


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ホソワラジムシ(外来種)

森にはおらず、道路沿いや海岸林の乾燥した場所にいた

住宅地や海岸林ならどこでもいるぐらいいた

触角がいい



小笠原諸島の陸上等脚目のうち、固有種は以下

アシナガフナムシ
ナガレフナムシ
オガサワラハヤシワラジムシ
オガサワラフナムシ
オガサワラタマワラジムシ
ハラダニセヒメワラジムシ

下4種は父島や母島の各地の森林土壌で過去に記録がある。

詳しい人から聞いたところ、ヒモムシの広がりとともに状況は毎年厳しくなり、記録がすでに途絶えている種もあるらしい。

どうりで全然見つからないわけだ。



日本の絶滅種の「その他無脊椎動物」に今いるのはトキウモウダニだけ。

ここに加わってほしくないが、

現地での個人的な感触では絶望的である。



http://hahoman.seesaa.net/article/49622238.html

母島でオガサワラフナムシを見つけている2007年のブログがあった。

>その後,広範囲を探したのですが,その分布域は山の上にかなり限定されているようです.

過去の記録では住宅地そばのもあるので、

2007年はリクヒモムシによって生息地が縮小している途中だったのだと思う。

オガサワラフナムシは母島の乳房山の山頂には何年か前までいたが、今はもういないという話を現地で聞いた。



昆虫と自然の2022年4月臨時増刊号には、小笠原のリクヒモムシについて詳しく書いてある。

これによると、小笠原諸島の父島の宮野浜で1981年に陸生ヒモムシが最初に発見、母島は1995年で、

小笠原の等脚を食べ尽くしているリクヒモムシは学名も原産地も不明らしい。

海外でもヒモムシが侵略的であるという報告はないし、侵略的外来種に指定されていない。

なぜ小笠原でこんなことに…












リクヒモムシの侵入前の等脚目の記録

青木淳一・原田洋(1978)小笠原の土壌動物相の研究I.土壌節足動物の群集構造.国立科博専報,11: 91- 106

リクヒモムシがいないときの小笠原の貴重な記録をみてみた。

父島と母島で大型土壌動物を採集して、73.9%が等脚だったとある。


信じられないのが等脚の数であり、25cm×25cm枠×5個の合計で、

大半の地点で100個体を超え、1000個体近くなる地点もある。


ムニンヒメツバキ林やテリハボク林を「自然林」とみなしているが、これは2次林のはず。

自然林と言えるのはウドノキ林やシマイスノキ林ぐらいでは。



実際に地点に行ってみたが、ダンゴムシが全く見られない場所もあり、ショックが大きい。

ダンゴムシが残る場所でもこの数字は出せそうにない。

リクヒモムシがいない時代はダンゴムシの天国だったのかもしれない。



リクヒモムシの侵入による等脚の減少の記録


Shinobe, S., Uchida, S., Mori, H. et al. Declining soil Crustacea in a World Heritage Site caused by land nemertean. Sci Rep 7, 12400 (2017)

リクヒモムシの侵攻が進む母島南崎で、25cm コドラート×3枠を35ヶ所を設置し、土壌を採集して土壌動物をハンドソーティングしている。

南崎の北部はヒモムシがいて、等脚が140匹/m2、

南崎の南部はヒモムシがいなくて、等脚が1200匹/m2。

ヨコエビも桁が2~3つほど違う。


捕食者も差があり、エサがヒモムシに横取りされたからとしている。

ただし、クモは数が変わらない。種構成が変わりそうだが種まで同定していないようである。


トビムシはヒモムシに食われないとあるが、ネットで検索すると捕食動画が見つかる。

おそらく繁殖力が強くて数が減らないのだと思う。



画像の埋め込み
アジアモリワラジムシやコガタコシビロダンゴムシが食われたという文でこの写真が使われているが、

このワラジムシは本州のオオハヤシワラジムシ属では?

オガサワラハヤシワラジムシでもなさそう。




捕食者1種で、等脚相が不可逆的なレベルにまで破壊されるなんて信じがたいのだが。

脆弱な海洋島の生態系だからなのか。

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2023年10月11日 (水)

オカダンゴムシ属とエルマ属

日本の外来種のオカダンゴムシ科は2種いる。

オカダンゴムシ Armadillidium vulgare

ハナダカダンゴムシ Armadillidium nasatum


オカダンゴムシ科の全種の原産地は地中海周辺で、多くの種がいる。

なんとなく調べたことをメモした。


オカダンゴムシ属 Armadillidium


とても種数が多い。

Armadillidium album
Armadillidium depressum
Armadillidium granulatum
Armadillidium nasatum
Armadillidium opacum
Armadillidium pictum
Armadillidium pulchellum
Armadillidium versicolor
Armadillidium vulgare
などなど200種ぐらいいる。


世界的に広まった種類はA. vulgareA. nasatumぐらいで、他は分布が狭く石灰岩地帯に多い。

分布が重なっていて、細かい違いで種を分けるらしく、原産地では誤同定も多いらしい。


Eluma


オカダンゴムシ属によく似るエルマ属がヨーロッパにいる。

オカダンゴムシ属より珍しく、背板につやがあり地中にいる傾向がある。

オカダンゴムシと同じで、丸くなり、腹尾節は三角。

オカダンゴムシ属は眼に多数の個眼がある複眼だが、エルマ属は左右の眼に大きな個眼が一つずつの単眼という違いがある。


以下の3種が知られる。

Eluma caelata
https://www.bmig.org.uk/species/eluma-caelata

Eluma praticola
https://www.researchgate.net/publication/273633890_Terrestrial_isopods_from_the_Oued_Laou_basin_north-eastern_Morocco_Crustacea_Oniscidea_with_descriptions_of_two_new_genera_and_seven_new_species

Eluma tuberculata


単眼はナガワラジムシなどでも見られる。

おそらく複眼が退化したものだと思う。

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2023年7月17日 (月)

昆虫の気管のような偽気管を持つダンゴムシがいるらしい

昆虫は気管があるがダンゴムシはない。

ただし、ダンゴムシのPeriscyphis属は例外的に気管のような呼吸器官があるということを最近知った。


Periscyphis属はEubelidae科の仲間で、イスラエルから熱帯アフリカに分布する。

ほとんどのダンゴムシは偽気管が腹肢に収まっているが、このダンゴムシは偽気管が体の本体まで広がるらしい。

腹肢1枚に1個の気門があり、そこから分枝する気道が腹肢内に広がり、

一部の気道は腹節へ通って、体内に広がる。

強い乾燥に適応した結果らしい。


昆虫の気管とは起源が違うもので、論文でも気管とは呼んでなくて発達した偽気管と書いてある。

ダンゴムシやワラジムシの呼吸器官はとても面白くて、3タイプとかを簡単にまとめたいのだが、

勉強不足でよくわかっていない……


Paoli, P., Ferrara, F., & Taiti, S. (2002). Morphology and evolution of the respiratory apparatus in the family Eubelidae (Crustacea, Isopoda, Oniscidea). Journal of Morphology, 253(3), 272-289.

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2023年2月 8日 (水)

Cylisticus convexusに和名がつくならダンゴムシになるのかワラジムシになるのか

ワラジムシ亜目の和名は、丸くなる種類をダンゴムシ、丸くならない種類をワラジムシと分けているが

和名がまだついていない種類にはワラジムシっぽいのに丸くなるという微妙なやつが結構いる。


たぶん中間な見た目で一番有名な種はCylisticus convexusだと思う。

https://www.bmig.org.uk/species/cylisticus-convexus

一見ワラジムシだが、背中が盛り上がっていてダンゴムシっぽく丸くなれる。

ヨーロッパ原産で近縁種は中東までいるが、外来種としてアメリカやアフリカなどに広がっている。


日本に分布せず和名がないので、まだダンゴムシなのかワラジムシなのか決まっていない。

しかし最近は中国でも発見されているので、そのうち日本に持ち込まれると思っている。

その時どっちに決まるか。



予想

Imgp50142
見た目ワラジムシだが丸くなれるハマワラジムシはワラジムシなので、

Cylisticusもワラジムシになる、に一票。



ちなみに、和名がついてないけど丸くなれるのは他にもたくさんいる。

Scleropactidae、Tendosphaera属とかもダンゴムシとなるのかワラジムシとなるのか…



ちなみにBuchnerilloという、完璧に丸くなるのにオカダンゴムシでもコシビロダンゴムシでもハマダンゴムシでもない種がいる。

https://www.researchgate.net/figure/A-B-Alive-specimens-of-Buchnerillo-atlanticus-sp-nov-in-their-habitat-photo-N_fig4_360783929

地中海やコスタリカ、ソマリアなどにいる海浜性ワラジムシ亜目。

ぱっと見はダンゴムシだが、細部はどのダンゴムシとも全く違う形態をしている。

論文は科未定(incertae sedis)とあり、どこに近縁かわからないらしい。

著者はかなりの有名研究者だが、科を決めるには遺伝解析が必要だと締めくくっている。

Taiti, S., Montesanto, G., & Vargas, J. A. (2018). Terrestrial Isopoda (Crustacea, Oniscidea) from the coasts of Costa Rica, with descriptions of three new species. Revista de Biologia tropical, 66(1-1), S187-S210.

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2023年1月 3日 (火)

1億年前のダンゴムシの化石

毎年ダンゴムシの新種が見つかっていて嬉しい。

なんとなく探していたら、ダンゴムシの化石の発見を見つけた。



ミャンマーのダンゴムシの化石

Poinar Jr, G. (2018). A new genus of terrestrial isopods (Crustacea: Oniscidea: Armadillidae) in Myanmar amber. Historical Biology, 1-6.

ミャンマーから採れた白亜紀中期の琥珀にコシビロダンゴムシの一種 Palaeoarmadillo microsoma のメスが入っていた。

おそらく最古級のダンゴムシの化石。ただしダンゴムシは古生代からいるとされる。


触角と尾肢が特徴的らしい。

寄生虫が見つかり、推定ワラジムシヤドリバエ科の幼虫が体から飛び出ていて、貯精嚢?にはダニが見つかっている。



この琥珀の産地はミャンマーのカチン州フーコン渓谷という外国人が入域禁止の紛争地帯。

ここの琥珀は戦争の資金源になっているとも言われるらしい。



今までの等脚の化石のリスト

https://doi.org/10.3390/fossils1010003

中生代の化石は非常に珍しい。

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2022年11月12日 (土)

ワラジムシヤドリバエの生態や寄生の写真

2017年にワラジムシヤドリバエのページを投稿していて懐かしい。

ダンゴムシやワラジムシに寄生するワラジムシヤドリバエ: だんだんダンゴムシ

あの時は資料が少なく、書く内容に困っていた。


しかし2018年にワラジムシヤドリバエ科の詳しい論文が発表されていた。気づかなかった。

Wood CT, Nihei SS, Araujo PB (2018) Woodlice and their parasitoid flies: revision of Isopoda (Crustacea, Oniscidea) – Rhinophoridae (Insecta, Diptera) interaction and first record of a parasitized Neotropical woodlouse species. In: Hornung E, Taiti S, Szlavecz K (Eds) Isopods in a Changing World. ZooKeys 801: 401-414.


南米のダンゴムシやワラジムシヤドリバエの話だがおもしろい。

ワラジムシ一匹にハエ一匹だけとか、

ワラジムシはお尻からねばねばした防御物質を出すが、これが逆にヤドリバエの誘引物質になっているかもとか、

歩くワラジムシにくっつき、脱皮中に皮膚を食い破って感染するとか。



カタツムリに寄生するヤチバエ科とかヤスデに寄生するヤスデヤドリバエ科とかもいるらしい。

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2022年10月31日 (月)

ハマ、ハマベ、ミギワ、シオサイ、ウシオ、ウミベ

海岸にいるワラジムシ亜目の和名は海に関係する名前になってことが多い。

ハマダンゴムシ

ハマワラジムシ

ハマベワラジムシ

ミギワワラジムシ

シオサイワラジムシ

ウシオワラジムシ

ウミベワラジムシ

これらが和名として存在する。いっぱいいて混乱させられる。

ちなみにタマワラジムシやフナムシなどは海浜性だが海岸に関係ない名前になっている。



ハマダンゴムシ科ハマダンゴムシ属ハマダンゴムシ
Imgp4851

シオサイワラジムシ科ハマワラジムシ属、ハマベワラジムシ属

ヒゲナガワラジムシ科ヒゲナガワラジムシ属(ミギワワラジムシ属はヒゲナガワラジムシ属に吸収された)
Imgp4410

ウシオワラジムシ科ヒイロワラジムシ属

ウミベワラジムシ科サイシュウウミベワラジムシ属(日本の種は過去にウミベワラジムシ属Scyphaxと分類されたが、全種がサイシュウウミベワラジムシ属Quelpartoniscusに移された)


複雑すぎて覚えられない。

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2022年10月 3日 (月)

跳ねるワラジムシを見てみたい

Schmalfuss (1984)などによると、ワラジムシ亜目は生態によっていくつかのタイプに分けられる。

Clinger:動きが鈍く、幅広の体型(Oniscus属など)
Runner:動きが早く、細い体型(ヒメフナムシ属など)
Roller:体を丸められる(オカダンゴムシ科、コシビロダンゴムシ科など)
など


Runnerには、Jumperというタイプを加わえることがある。

Ischioscia属やトゲモリワラジムシ属(Burmoniscus属)の一部はヨコエビのように飛び跳ねるらしい。

トビムシのように尾を叩きつけることで、種類によっては20cmも跳躍するらしい。

捕食者から逃れるためと書いてあった。


モリワラジムシは日本にもいるので、見つけて動画を撮りたい。


写真が楽しい論文があった↓
Tuf IH, Ďurajková B (2022) Antipredatory strategies of terrestrial isopods. In: De Smedt P, Taiti S, Sfenthourakis S, Campos-Filho IS (Eds) Facets of terrestrial isopod biology. ZooKeys 1101: 109-129.

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2022年6月30日 (木)

陸にもいるイタリアのハマダンゴムシ

ハマダンゴムシ科Tylidaeは2属に分かれる。

ハマダンゴムシ科
┣ハマダンゴムシ属Tylos
Helleria


ハマダンゴムシ属はすべて海岸にいるダンゴムシである。

Helleria属は Helleria brevicornis だけからなる属で、海岸から離れた所でも見られる珍しいハマダンゴムシである。


Helleria brevicornis はイタリアのコルシカ島、サルデーニャ島、トスカーナ群島とイタリア本土、フランス本土の一部にいる。

腐葉土の中に穴を掘って生活する。


他のダンゴムシやワラジムシと違って、ハマダンゴムシは生涯で一回だけ繁殖する、貯精嚢がないので繁殖脱皮のとき交尾しないと卵が受精しない、繁殖前ガードをするなどの特徴がある。

Helleriaの呼吸器の白体の構造はハマダンゴムシ属や他のダンゴムシと違う。


遺伝子解析によると4つのグループに分かれ、コルシカ島とサルデーニャ島は遺伝的に少し違うらしい。

本土とトスカーナ群島のHelleriaはコルシカ島の個体と遺伝的に同じなので、人為的な持ち込みの可能性があるらしい。

Gentile G, Campanaro A, Carosi M, Sbordoni V, Argano R. 2010. Phylogeography of Helleria brevicornis (Crustacea, Oniscidea): Old and recent differentiations of an ancient lineage. Molecular Phylogenetics and Evolution, 54(2), 640-646.


wikipediaがすごく詳しい。

https://en.wikipedia.org/wiki/Helleria_brevicornis

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2022年6月 9日 (木)

ヘラムシは体の色を周りと合わせるらしい

ハマダンゴムシはいろんな色があっておもしろいと常々思っている。

土と生き物というブログに、黒い砂浜に黒いハマダンゴムシがいたというページがあった。

周囲の色で自分の色を変えるのかな?



似たような話は等脚類の保護色の研究はヘラムシで見た。

ヘラムシは赤の色素カンタキサンチンと緑の色素結合タンパク質を持っていて、それぞれの色素の割合によってヘラムシの体の色が赤~茶色~緑になる。

海藻や海草にくっついて、βカロチンなどから色素を合成することで体色を変化させ周囲の海藻に合わせるらしい。

実験でも保護色により食べられにくくなることがわかっている。



そういえばNosilのナナフシの色と生態の話がとてもおもしろかった。





フナムシの腸に寄生するカビ、フナムシヤドリ

海岸にいるフナムシの腸内に寄生するカビの話を読んだ。

陶山 舞, 高木 望, 出川 洋介, 佐藤 大樹, 折原 貴道, 神奈川県におけるフナムシ腸内寄生菌フナムシヤドリ(新称)Asellaria ligiae の生息状況, 神奈川自然誌資料, 2021, 2021 巻, 42 号, p. 53-56

神奈川県のフナムシの後腸から新種の腸内寄生菌フナムシヤドリを見つけている。

Asellaria属は等脚類の腸内から採集される菌らしい。


ハマダンゴムシのHelleria属の腸内に寄生するカビもいるらしい。

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