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2014年5月11日 (日)

オスに3種類の形態があるツノオウミセミ

海にいるダンゴムシの仲間、コツブムシについて調べていたら、

ツノオウミセミの一種 Paracerceis sculpta は、おもしろい性質を持つということを見つけた。



ダンゴムシの性的二型

オカダンゴムシは雌雄で形が違う。(性的二型がある)

例えば、ダンゴムシのオスの第一胸脚の毛は、メスよりおおい。



コツブムシにも性的二型はよく見られる。

このツノオウミセミにも性的二型があり、雌雄で形がちがう。

それだけでなく、オスにも3種類のタイプがあるのである。




Paracerceis sculpta のオスのかたち

サイズが大きい順にα、β、γタイプと分類されている。

Female sexual receptivity associated with molting and differences in copulatory behavior among the three male morphs in Paracerceis sculpta (Crustacea: Isopoda)

この論文にスケッチがある。



α-male: 尾肢などが発達し、メスより大型のタイプ

β-male: 大きさ、外観がメスに擬態したタイプ

γ-male: 上の2タイプより小さく、子どもに擬態したタイプ



3つのどれになるかは遺伝的に決まっていて、繁殖率は等しいらしい。

(Equal mating success among male reproductive strategies in a marine isopod)

3つとも同じ種というのがおもしろい。




生活史、ダンゴムシの繁殖(長文)

このツノオウミセミは、海綿(Leucetta losangelensis)の中で、石灰藻などを食べている。

海綿にα-maleが巣をつくり、複数のメスを守っている。

オスはメスがsexual receptivityを持つタイミングをじっと待ち、外敵や別のオスからメスを守っている。



オスが大変なのは、メスは一生で約1日だけsexual receptivityを保持している(交尾ができる?)ということである。

sexual receptivityが2回訪れることはなく、そのとき交尾しないと二度と妊娠できない。

未熟卵が再吸収されることはない。



※オカダンゴムシは一生のうち、何度も子どもを産める。

また、精子の貯蔵器官があるので、いつでも交尾でき、一年以上も精子を保存でき、好きなときに使える。

オカダンゴムシが広まったのは、この性質の助けがあるからと思ったが、このツノオウミセミも世界中に外来種として広まっているので、関係ないかも。




まず、メスの卵が成熟し、オスがそばにいると脱皮を開始する。

この脱皮を普通の脱皮と区別して、sexual moltという。

ワラジムシ目の特徴として、脱皮を二回に分けることがあげられる。(biphasic moulting)後ろ半分を脱ぎ、前半分を脱ぐ。



後ろを脱いでから、前を脱ぎ始める直前までがsexual receptivityを持つ時間である。

後ろを脱ぐ時まで、生殖孔がないので、物理的に交尾ができない。

そして、前を脱ぐと、卵は育房(brood pouch)に移動してしまう。

オスは触角でこの瞬間のメスを常に探し、見つけると交尾する。



生殖孔は左右に二つあり、両方に精包(sperm mass)を注入する。

精子は運動せず、見た目は線虫のようなもの。oviductの運動で卵巣に運ばれるとされる。

ダンゴムシの精子と形が似ている。



交尾できる時間は何時間もあるので、その間にメスは複数回交尾を受け入れる。

このとき、α-maleの隙をついてくるのが、β、γ-maleである。

β-maleはメスに扮して堂々と、γ-maleは小さい体なので巣の隙間からこっそり侵入する。

そしてメスと交尾し、速やかに去る。



α-maleは、β、γに対抗するために、

交尾が終了してもメスに抱き付いて、他のオスの接触を断とうとする。



メスは前の脱皮をすると、口が退化している。一回繁殖(semilparity)のDynamene属ではよくある。

飲まず食わずで卵を育て始める。

脱皮前はよく食べるが、脱皮をすると一切食べなくなる。

そのかわり、体色、消化管、筋肉組織が減少していき、動きも鈍くなる。

やせ細ったメスは、子どもを産んだら、力尽きて死んでしまう。



数十日たつと子どもが孵る。

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