オスに3種類の形態があるツノオウミセミ
海にいるダンゴムシの仲間、コツブムシについて調べていたら、
ツノオウミセミの一種 Paracerceis sculpta は、おもしろい性質を持つということを見つけた。
ダンゴムシの性的二型
オカダンゴムシは雌雄で形が違う。(性的二型がある)
例えば、ダンゴムシのオスの第一胸脚の毛は、メスよりおおい。
コツブムシにも性的二型はよく見られる。
このツノオウミセミにも性的二型があり、雌雄で形がちがう。
それだけでなく、オスにも3種類のタイプがあるのである。
Paracerceis sculpta のオスのかたち
サイズが大きい順にα、β、γタイプと分類されている。
この論文にスケッチがある。
α-male: 尾肢などが発達し、メスより大型のタイプ
β-male: 大きさ、外観がメスに擬態したタイプ
γ-male: 上の2タイプより小さく、子どもに擬態したタイプ
3つのどれになるかは遺伝的に決まっていて、繁殖率は等しいらしい。
(Equal mating success among male reproductive strategies in a marine isopod)
3つとも同じ種というのがおもしろい。
生活史、ダンゴムシの繁殖(長文)
このツノオウミセミは、海綿(Leucetta losangelensis)の中で、石灰藻などを食べている。
海綿にα-maleが巣をつくり、複数のメスを守っている。
オスはメスがsexual receptivityを持つタイミングをじっと待ち、外敵や別のオスからメスを守っている。
オスが大変なのは、メスは一生で約1日だけsexual receptivityを保持している(交尾ができる?)ということである。
sexual receptivityが2回訪れることはなく、そのとき交尾しないと二度と妊娠できない。
未熟卵が再吸収されることはない。
※オカダンゴムシは一生のうち、何度も子どもを産める。
また、精子の貯蔵器官があるので、いつでも交尾でき、一年以上も精子を保存でき、好きなときに使える。
オカダンゴムシが広まったのは、この性質の助けがあるからと思ったが、このツノオウミセミも世界中に外来種として広まっているので、関係ないかも。
まず、メスの卵が成熟し、オスがそばにいると脱皮を開始する。
この脱皮を普通の脱皮と区別して、sexual moltという。
ワラジムシ目の特徴として、脱皮を二回に分けることがあげられる。(biphasic moulting)後ろ半分を脱ぎ、前半分を脱ぐ。
後ろを脱いでから、前を脱ぎ始める直前までがsexual receptivityを持つ時間である。
後ろを脱ぐ時まで、生殖孔がないので、物理的に交尾ができない。
そして、前を脱ぐと、卵は育房(brood pouch)に移動してしまう。
オスは触角でこの瞬間のメスを常に探し、見つけると交尾する。
生殖孔は左右に二つあり、両方に精包(sperm mass)を注入する。
精子は運動せず、見た目は線虫のようなもの。oviductの運動で卵巣に運ばれるとされる。
ダンゴムシの精子と形が似ている。
交尾できる時間は何時間もあるので、その間にメスは複数回交尾を受け入れる。
このとき、α-maleの隙をついてくるのが、β、γ-maleである。
β-maleはメスに扮して堂々と、γ-maleは小さい体なので巣の隙間からこっそり侵入する。
そしてメスと交尾し、速やかに去る。
α-maleは、β、γに対抗するために、
交尾が終了してもメスに抱き付いて、他のオスの接触を断とうとする。
メスは前の脱皮をすると、口が退化している。一回繁殖(semilparity)のDynamene属ではよくある。
飲まず食わずで卵を育て始める。
脱皮前はよく食べるが、脱皮をすると一切食べなくなる。
そのかわり、体色、消化管、筋肉組織が減少していき、動きも鈍くなる。
やせ細ったメスは、子どもを産んだら、力尽きて死んでしまう。
数十日たつと子どもが孵る。
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