ダンゴムシの仲間は2回に分けて脱皮する
ダンゴムシの仲間(ワラジムシ目、等脚類)は脱皮動物である。
脱皮する時、後ろ半分→前半分、と2回に分けて脱皮する。
英語では「biphasic molting」という。「posterior →anterior」で二相性。
この二相性脱皮はワラジムシ目のみで見られる珍しい行動である。
他の甲殻類のエビ、カニ、ヨコエビは脱皮を1回で終わらす。
ダンゴムシが脱皮をする理由は「成長のため」「繁殖のため」の2つがある。
脱皮すると体が大きくなる。繁殖期のメスは脱皮と同時に排卵する。
詳しくはダンゴムシの生殖脱皮、生理周期、求愛: だんだんダンゴムシで。
脱皮の時系列
1.最初に表面がうっすら浮き上がる。
全体的に白っぽくなることがある。触ると少し柔らかく感じる。
このとき甲羅の成分であるカルシウムを再吸収して後ろ半分から前半分へ移動させるため、
体の腹側の前半分にカルシウム斑ができる。
2.後ろ半分を脱ぐ。
コシビロダンゴムシの後ろ脱皮直前
どのワラジムシ目も第4胸節と第5胸節が境目となる。
コシビロダンゴムシの後ろの脱皮殻
3.数日かけて後ろ半分がかたくなる。
成長したせいか、後ろ側が太くなったように見える。
前方のカルシウムが後方へ送られ、カルシウム斑が消える。
4.前半分が白くなり、前側を脱皮をする。
コシビロダンゴムシの前半分の脱皮直前
オカダンゴムシの前半分の脱皮殻
脱皮直前に柔らかくなるのは、古い甲羅を溶解→吸収→新しい甲羅に再構成しているからだと思われる。
これによって、脱皮で失う栄養分をなるべく少なくしていると考えられている。
脱皮動物によく見られることだが、抜け殻もすぐに食べて栄養源にする。
ダンゴムシの甲羅の構造は土と生き物: Hornungの1を見て下さい。
さらに細かい時系列は以下に書いた。
ワラジムシの脱皮のステージ、二回脱皮の理由: だんだんダンゴムシ
海に住むダンゴムシの仲間の脱皮
ダンゴムシの仲間であるワラジムシ目はほぼ全て2回にわけて脱皮する。
ワラジムシ、フナムシ、コツブムシ、ヘラムシ、ミズムシ、オオグソクムシ、ダイオウグソクムシなど。
後ろ半分を脱皮中のキクイムシ
脱皮を一発で終わらす例外の種類
例外は、ヘラムシ亜目で南極周囲にすむヤリボヘラムシ トガリヘラムシの一種Glyptonotus acutusである。
NHKのサイトにこのヘラムシの動画がある。
Robert Y George, 1972, Biphasic moulting in Isopod Crustacea and the finding of an unusual mode of moulting in the antarctic genus Glyptonotus
この種は、体全体を一気に脱ぐことで、脱皮を一回で終わらす単相性脱皮である。
この種は南極固有。Glyptonotus 属自体も、南極に2種、北極に1種しかいない。
(追記)さらに調べたら、脱皮を一回で終了する種類が他にもいた。
「なぜ脱皮を前後2回に分けるのか?」を考えた
脱皮を2回に分ける理由はわかっていない。
同じ甲殻亜門に属する十脚目(エビ、カニなど)や端脚目(ヨコエビ、ワレカラなど)などは1回で脱皮を終わらす。
ダンゴムシと体が似ているヨコエビとも脱皮の仕方が違う。
周囲の環境やエサの量によって、脱皮は延期することが可能である。
生理学的には前半分だけが後ろ半分より遅れて脱皮しているのだと思う。
上のトガリヘラムシの論文では、ホルモンが前半分だけ遅れていると予想している。
なぜこの進化がワラジムシ目に定着したのだろう?
南極のトガリヘラムシの論文には、「背甲がないから」「南極という特殊な環境だから」とあったが、
納得がいかないし、さすがに違うかな。
単相性脱皮が不利な点として
全部の脚(殻)が弱くなり、敵から逃げにくくなる
一気に多くのエネルギーを使うから、死にやすい
うまく脱げず、脱皮に失敗しやすい
などが思いついた、がなんか微妙…
半分脱皮と全部脱皮の間で、被捕食率、死亡率、脱皮失敗率に差はある?
なんとなく、カルシウムを失わないように二相性にしている気がしている。
エビなどは再吸収するカルシウムを胃などに蓄積するが、脱げてしまう皮膚には溜められない。
たぶん胃だけでなく皮膚など体半分全体にカルシウムを蓄積できる二相性脱皮は、脱皮による損失が抑えられるのだと思う。
ワラジムシの脱皮のステージ、二回脱皮の理由: だんだんダンゴムシ
どこかのホームページで
>固まっていない表皮から水分が抜けてしまうから、乾燥を抑えるために2回に分ける。
と書いてあったが、
ワラジムシ目の祖先は海で進化したので、「乾燥」は理由にならない。
ダンゴムシの仲間だけに見られる特殊な二相性脱皮についてのレビュー
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