セルラーゼを自分で合成できるキクイムシ
地球上の全バイオマス(生物の量)のうち、最大の割合を占めるのがリグノセルロース(lignocellulose)である。
リグノセルロースとは、植物の細胞壁の主成分である。
セルラーゼ(セルロースを分解する酵素)を持つ生物
セルロースを栄養源にするのはとても難しい。人間もセルロースを消化できない。
しかし、セルロースを多く含む木材を食べるシロアリは、おなかに住む共生細菌に分解させている。
理化学研究所が、過去にシロアリのセルラーゼについて研究していた。
詳しくはWikipediaの草食動物のページへ。
バッタは細菌がいないので、セルラーゼがなく、消化できないらしい。
オンブバッタ
ほとんどの昆虫は、共生細菌に頼ることで木材を分解している。
細菌に頼らないキクイムシ
キクイムシは海底に沈んだ木材を食べているダンゴムシの仲間。
キクイムシ
磯でぼろぼろに穴が開いた木材を拾って砕くと見つかる。
フナクイムシと同居している。
キクイムシは自分自身でセルラーゼを分泌しているらしい。
セルラーゼ酵素の遺伝子は、細菌から水平伝播によって取り込んだらしい。
キクイムシはセルラーゼを持っているおかげで、木材で生きていける。
腐食食者だった海産ダンゴムシがセルラーゼを獲得して木材食に特化することで、キクイムシへと進化したんだと思う。
(追記)
と思ったが、等脚類はミズムシからダンゴムシ、ワラジムシまでセルラーゼを持っているらしい。
Bredon, M., Herran, B., Lheraud, B., Bertaux, J., Grève, P., Moumen, B., & Bouchon, D. (2019). Lignocellulose degradation in isopods: new insights into the adaptation to terrestrial life. BMC genomics, 20(1), 462.
キクイムシの腸内
Molecular insight into lignocellulose digestion by a marine isopod in the absence of gut microbes (2010)
セルラーゼを出す細菌に頼らないため、キクイムシの腸内に細菌はほとんどいない。
木材をエサにするために多様な細菌や真菌を腸内に持つ、下等シロアリ、キクイムシ(昆虫)、クワガタなどの昆虫と対照的。
キクイムシの胃腸の中は木材が詰まっている。
胃を通過すると、Hepatopancrea と呼ばれる臓器から出るGH family タンパク質やhemocyaninなどの消化酵素と混ざり、腸内で分解される。
hepatopancrea と腸管の接合部には筋肉でできたフィルターがあり、腸管からhepatopancreaに食物が逆流しないようになっている。
植物バイオマスを分解し、糖に変え、燃料にしようという研究がある。
ただ、この手のセルラーゼを使ったバイオ燃料の研究は、かなり難しいと聞く。植物を分解する過程で多くのエネルギーが必要となり、それを上回るエネルギーを回収するのが厳しいらしい。いまだに経済的なセルロースエタノール製造技術は開発されていない。
| 固定リンク
「海のダンゴムシ:キクイムシ」カテゴリの記事
- キクイムシと軍隊(2018.07.17)
- アンドリュースキクイムシをもらった(2017.10.15)
- 最終氷期の後、海のワラジムシ目の数が急増している(2018.07.23)
- キクイムシの一覧(2015.10.04)
- セルラーゼを自分で合成できるキクイムシ(2015.08.21)
コメント
共生細菌、水平伝播、難しいけど面白いですね。
これからも海のダンゴムシの仲間、期待しています。
一つ質問させて下さい。コツブムシは前部と後部、二回に分けて
後部から先に脱皮するそうですが、前部から先に脱皮する事例は
ないのですか? 教えてください。
投稿: 磯岸 | 2015年9月 5日 (土) 22:32
コメントありがとうございます。
ワラジムシ目で「前から始まる脱皮」は聞いたことがないです。
ダンゴムシやミズムシなど、知っている観察例は全て後ろからです。
ただ、きちんと調べたことがないので、私が知らない可能性も。
後ろだけ脱皮するけど前はしないみたいに融通が利くらしいので、あり得るかもしれないです。
投稿: だんだんダンゴムシ | 2015年9月 8日 (火) 18:14
ありがとう。前部が小さいコツブムシの画像があります。
後日、記事にしたいと思います。よかったら見て下さい。
投稿: 磯岸 | 2015年9月 9日 (水) 13:56