ダンゴムシの水分調節システムWCS
ざんねんないきもの事典
ざんねんないきもの事典という本に「ダンゴムシはおしりから水を飲む」とあった。
これは内容が残念。
>ダンゴムシはしめった場所を好みますが、それはもともと海の生き物だったから。近いなかまのフナムシやグソクムシなどは、いまでも海で生活をしています。 そんなダンゴムシは、水を大量に飲むとき、必ずおしりから飲みます。しかし、落ち葉などは口から食べ、おしりからうんこをしているので、この行動の意味はなぞです。 ただし、なかまのフナムシが、おしりの近くにある足で海水をすい上げ、えらに送って呼吸をしているため、ダンゴムシも「水はおしりから飲むものだ」と、思いこんでいるのかもしれません。
フナムシを「海で生活」とするのはおかしい。生活場所は海に近い陸であり、海ではない。
「水を大量に飲むとき、必ずおしりから飲」むかもかなり疑わしい。
理由についても「なぞ」ではなくWCSがあるから。
全ての文がまちがっているので、著者の哺乳類学者、今泉忠明はダンゴムシのことは詳しくないのかも。
WCSの説明
ダンゴムシには体の表面に水を行き渡らせる仕組みがある。
体表に細い溝があり、中に毛scaleが生えて水の通り道になっている。
これを water conducting system(WCS)と呼んでいる。(和訳するなら通水系?)
ワラジムシ亜目(ダンゴムシ、ワラジムシ、フナムシ)だけにある器官系である。
WCSは体の表面に水を流すシステムであり、体内で血液を循環させる血管系とは全く異なる。
溝は頭部から尾部まで左右に2本走っていて、節と節の間にも横方向にある。
脚の先端まであることもある。
オカダンゴムシや一部のワラジムシは触角にもある。
頭、おしり、脚、触角、尾肢から水分を出し入れして体表の水分調節をするようである。
WCSの役割は不明だが、体の乾燥防止、ガス交換をする腹肢への水分供給、体温の調節、窒素分を蒸発させた尿の再利用の役割があるとされている。
顎から排泄されたおしっこはWCSに乗せられ、途中でアンモニアが蒸発し、水だけが呼吸器の腹肢や肛門に到達すると考えられている。
(陸上等脚類の窒素の排出はアンモニアでする。(Nitrogenous excretion of amphipods and isopods.)
ヒトデの水管系 water vascular system にちょっと似ている。役割は違うが。
陸上に進出したワラジムシ亜目だけが持つので、進化的な意味は大きいと言われている。
海では顎から出たおしっこは拡散するが、陸ではしない。
おしっこを地面に捨て、新鮮な水を飲むためにもWCSは必要だったのだろう。
フナムシのオープンなWCS
赤線がフナムシのWCS
第6胸脚と第7胸脚のWCSから毛細管現象によって吸い上げた水を全身に回している。
特に呼吸で使う腹肢に多く回し、乾きやすい腹肢の乾燥を防ぐとされる。
タマワラジムシ科の第6胸脚と第7胸脚にもWCSがある。
全身に水を回すのは詮無いことのように思えるがどうなんだろう。
ワラジムシのクローズドなWCS
ワラジムシ Porcellio scaber も頭から腹部まで、甲羅の腹側に溝が走っている。
頭から後ろへ御小水が流れる。
第5胸節を腹側から撮影
第4胸脚を除いてある。
拡大
写真の真ん中の筋がWCSの溝
死んだ標本なのに水が流れていて小さな埃が前から後ろへ動いていた。
WCSの資料が少なく、時間をかけて調べてもあまりよくわからなかった。
ダンゴムシの尿の説明
参考文献
Hoese B. 1982. The Ligia-type of the water conducting system in terrestrial isopods and its development in the family Ligiidae. Zoologische Jahrbücher für Anatomie, 108, 225-261.
Hornung E. 2011. Evolutionary adaptation of oniscidean isopods to terrestrial life: structure, physiology and behavior. Terrestrial Arthropod Reviews, 4, 95.
Eisenbeis G, Wichard W. 2012. Atlas on the biology of soil arthropods. Springer Science & Business Media.
Thiel M, Poore G. 2020. The Natural History of the Crustacea: Evolution and Biogeography of the Crustacea, 8. Oxford University Press.
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