カテゴリー「海のダンゴムシ:キクイムシ」の12件の記事

2018年7月23日 (月)

最終氷期の後、海のワラジムシ目の数が急増している

日本の海岸にいる等脚類の遺伝子を調べている研究でヘラムシとキクイムシを調査して、

個体数の変動で似たような結果を出していた。



北海道のヘラムシ


Hiruta, S. F., Ikoma, M., Katoh, T., Kajihara, H., & Dick, M. H. (2017). A matter of persistence: differential Late Pleistocene survival of two rocky-shore idoteid isopod species in northern Japan. Hydrobiologia, 799(1), 151-179.

オホーツクヘラムシ Idotea ochotensis と、イソヘラムシ Cleantiella isopus

北海道と東北の岩場の磯でそれぞれ200匹ぐらい採集している。
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海草に擬態するオホーツクヘラムシ?

Photo
イソヘラムシ?

どっちも海藻をとると付いていることがある。



北海道では、オホーツクヘラムシは13万年ぐらい前から増えていて、イソヘラムシは最終氷期(約2万年)後に数が増えていると推測している。

オホーツクヘラムシは寒い所が好きで、氷河期を乗り越えて増え続け、

イソヘラムシは寒い所が苦手なので、氷河期が終わってから数が増えた、

ということらしい。



太平洋のキクイムシ


Yoshino, H., Yamaji, F., & Ohsawa, T. A. (2018). Genetic structure and dispersal patterns in Limnoria nagatai (Limnoriidae, Isopoda) dwelling in non-buoyant kelps, Eisenia bicyclis and E. arborea, in Japan. PloS one, 13(6), e0198451.

太平洋と日本海のナガタキクイムシ Limnoria nagatai について調べている。

ナガタキクイムシは海藻のアラメにいて100匹ぐらい集めている。
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キクイムシ

最終氷期の後、太平洋のナガタキクイムシは数が増えていると推測している。




太平洋のイワホリコツブムシ


イワホリコツブムシも似たような結果のようだ。

Kitaura, J., Yoshida, R., & Nunomura, N. (2018). Genetic population structure of Sphaeroma wadai Nunomura, 1994 (Isopoda: Sphaeromatidae) along the Japanese coast. Crustacean Research, 47, 111-123.



浅い海にいると亜目が違っても似た結果になるのはおもしろい。

陸にいる昆虫とかも氷河期が終わってから増えた例はあるらしい。

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2018年7月17日 (火)

キクイムシと軍隊

海中に木材を沈めると、穴だらけになる。

フナクイムシ Teredinidae (二枚貝綱)とキクイムシ Limnoriidae (ワラジムシ目)という木材穿孔性の動物のせいであることが多い。
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フナクイムシは石灰でできた白い巣を作る(下)。

キクイムシもよく一緒にいる(左中央)。



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キクイムシ Limnoria ?のmanca幼生



木造船の被害は昔からよく知られる。

銅板を張ったり、陸揚げして干したりして対策をとっていた。



Shipworms and the Making of the American Coastline

これに海軍と木材穿孔性動物の戦いについて少し書いてある。

キクイムシとフナクイムシには昔から苦労してきたらしい。

木造の港湾施設が破壊されたり、木造船に穴が開いたり。

今は海に沈んだ木造船の保存で問題になっている。



意外にも鉄の船が主流になっても軍による研究は続いていて、第二次世界大戦後でも進められている。

調べたら今の自衛隊もまだ木造船を持っていた。

キクイムシの研究は軍隊が中心に進めていたと某等脚類研究者から聞いたことがある。

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2017年10月15日 (日)

アンドリュースキクイムシをもらった

歌魚風月さんからキクイムシとキクイモドキをいただきました。

いただいた海底の材木の冷凍標本を割った。
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中に小さいトンネルがある。


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左から、キクイムシ属の一種、アンドリュースキクイムシ、キクイモドキ

3種類とも海中に沈む木材を食べる。

アンドリュースキクイムシとキクイモドキは初めて見た。



キクイムシは木材に穴を開けることができる。
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嘴のような顎を持っていて、木を削りとって食べている。




キクイムシ属とParalimnoria属の違い


ワラジムシ目キクイムシ亜目のうち、キクイムシ属 Limnoria Paralimnoria 属が日本にいる。

Paralimnoria 属はアンドリュースキクイムシだけが日本にいる。

尾肢の形で見分ける。
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白抜きの矢印が尾肢。

ピンクの矢印が腹尾節。

頭の黒い点は眼。



アンドリュースキクイムシの尾肢外肢の先端
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Paralimnoria 属は爪が鋭い。

写真に写っていないが内肢も鋭い。



1
腹尾節の中心に2つの瘤がある特徴をもつ。



キクイムシ属の尾肢の先端
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アンドリュースキクイムシと違って鈍い。

分類は混乱しているようで種を特定できなかった。

日本のキクイムシはキクイムシLimnoria lignorumが多く記録されているが,おそらく全て間違い。


ヨコエビ目キクイモドキ科の一種


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キクイムシの作った穴の中に住む。

キクイモドキも木材を食べている。



木材は、こういう小さな生き物の貴重なエサになる。

港などの海底を清掃して回収されるゴミは大半が税金で焼却処分されているらしい。

木だけ分別して沖合に再投棄してくれないかな?

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2015年10月 4日 (日)

キクイムシの一覧

ワラジムシ目(等脚類)のなかにキクイムシ亜目がある。

海虱、キクイシャコとも呼ばれる。昔の文献はキクヒムシと表記している。

英語はgribble、sea lice。

(注:昆虫にも同名のキクイムシ bark beetle がいるが、こちらは全て陸上に生息する。)



ワラジムシ目キクイムシ亜目Limnoriidea Brandt & Poore, 2002の一覧


キクイムシ亜目はキクイムシ上科Limnorioidea White, 1850のみからなる。

全てが海産である。

3科5属をまとめた。


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ケウピリア科 Keuphyliidae

ケウピリア属 Keuphylia

Keuphylia nodosa Bruce, 1980

一属一種。

オーストラリアから見つかっている。

写真→http://www.crustacea.net/crustace/isopoda/www/keuphy.htmリンク切れ

https://www.researchgate.net/figure/Dorsal-views-of-typical-species-of-isopods-of-suborders-Tainisopidea-Phoratopidea_fig1_248899840



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ハドロマスタックス科 Hadromastacidae

ハドロマスタックス属 Hadromastax

Hadromastax dinamoraze Bruce, 2004

Bruce, N. L. (2004). Hadromastax dinamoraze sp. nov., the first occurrence of the family Hadromastacidae Bruce and Müller,(Isopoda, Crustacea, Limnoriidea) in the Indian Ocean. Journal of Natural History, 38(23-24), 3113-3122.
Hadromastax merga Bruce, 1988
Hadromastax polynesica
Bruce & Muller, 1991

上から順番に、モーリシャスのロドリゲス島のサンゴ礁、オーストラリア東の深海、フランス領ポリネシアのモーレア島のサンゴ礁から発見。



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キクイムシ科 Limnoriidae

○:日本から記録がある種

リンセイア属 Lynseia

Lynseia annae Cookson & Poore, 1994
Lynseia dianae Cookson & Poore, 1994
Lynseia himantopoda
Poore, 1987

Cookson, L. J., & Poore, G. C. (1994). New species of Lynseia and transfer of the genus to Limnoriidae (Crustacea: Isopoda). Memoirs of the Museum of Victoria, 54(1), 79-189.

オーストラリアの西海岸や南海岸の海草の内部や砂底から見つかる。

腹節の長さが長く、尾肢が小さく腹面にある。

尾肢がないウミナナフシに見えるかも。



カギオキクイムシ属 Paralimnoria

Paralimnoria andrewsi (Calman, 1910) ○ (アンドリュースキクイムシ)
Paralimnoria asterosa
Cookson & Cragg, 1988

太平洋全体やカリブ海の浅い海に棲み、木材を食べている。

日本ではアンドリュースキクイムシが主要な港湾部で見つかり、外来種とされる。

アンドリュースキクイムシ5匹(ドロクダムシ?が1匹混ざっている。)
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キクイムシ属 Limnoria

Limnoria agrostisa Cookson, 1991
Agrostisa
Limnoria algarum Menzies, 1957
Algarum
Limnoria andamanensis
Rao & Ganapati, 1969
Andamanensis
Limnoria antarctica Pfeffer, 1887
Antarctica
Limnoria aspera
Yoshino et al., 2021
Aspera
Limnoria bacescui
(Ortiz & Lalana, 1988)
Bacescui
Limnoria bituberculata
Pillai, 1957
Bituberculata
Limnoria bombayensis
Pillai, 1961
Limnoria borealis
Kussakin, 1963 ○ (ホッキョクキクイムシ、オホーツク海、日本海)
Borealis
Limnoria carinata Menzies & Becker, 1957
Carinata Castelló, 2011
Limnoria carptora Cookson, 1997
Carptora
Limnoria chilensis Menzies, 1962
Chilensis
Limnoria clarkae (Kensley & Schotte, 1987)
Clarkae
Limnoria convexa Cookson, 1991
Convexa
Limnoria cristata
Cookson & Cragg, 1991
Cristata
Limnoria echidna
Cookson, 1991
Echidna
Limnoria emarginata Kussakin & Malyutina, 1989
Emarginata
Limnoria foveolata
Menzies, 1957
Foveolata
Cookson, 1997
Limoria furca
Yoshino & Ohsawa, 2019 ○ (島根県~長崎県)
Furca
Limnoria gibbera Cookson, 1991
Gibbera
Limnoria glaucinosa Cookson, 1991
Glaucinosa
Limnoria hicksi
Schotte, 1989
Hicksi
Limnoria hiradoensis Nunomura, 2009 ○ (ヒラドキクイムシ、長崎県平戸市)
Hiradoensis
Limnoria indica Becker & Kampf, 1958 ○?
IndicaKensley & Schotte, 1987, Cookson, 1991
Limnoria insulae Menzies, 1957
Insulae
Limnoria japonica
Richardson, 1909 ○ (ニホンキクイムシ、富山県富山湾)
JaponicaMenzies, 1957
Limnoria kautensis Cookson & Cragg, 1988
Kautensis

Limnoria lignorum (Rathke, 1799) ○? (キクイムシ)
Lignorum
Limnoria loricata Cookson, 1991
Loricata
Limnoria magadanensis Jesakova, 1961 ○ (マガダンキクイムシ、島根県隠岐諸島)
Magadanensis
Limnoria mazzellae Cookson & Lorenti, 2001
Mazzellae
Limnoria multipunctata
Menzies, 1957  ○?
Multipunctata Kensley & Schotte, 1987
Limnoria nagatai Nunomura, 2012  ○ (ナガタキクイムシ、大分県国東半島、愛媛県伊方町)
NagataiYoshino & Ohsawa, 2019
Limnoria nonsegnis Menzies, 1957
Nonsegnis
Limnoria orbellum
Cookson, 1991
Orbellum
Limnoria pfefferi
Stebbing, 1904
Pfefferi

Limnoria platycauda Menzies, 1957  ○?
Platycauda
Limnoria poorei Cookson, 1991
Poorei
Limnoria quadripunctata
Holthuis, 1949
CSIRO ScienceImage 1558 Limnoria Quadripunctata.jpg
By CSIRO, CC BY 3.0, Link

Limnoria raruslima Cookson, 1991
Raruslima
Limnoria reniculus Schotte, 1989
Reniculus

Limnoria rhombipunctata Yoshino et al., 2017 ○ (千葉県銚子市)
Rhombipunctata
Limnoria rugosissima Menzies, 1957
RugosissimaCookson, 1991
Limnoria saseboensis
Menzies, 1957 ○ (サセボキクイムシ、長崎県佐世保市)
SaseboensisCookson, 1997
Limnoria segnis Chilton, 1883
Segnis Menzies, 1957
Limnoria segnoides
Menzies, 1957 ○  (モズミキクイムシ、神奈川県三浦半島)
Segnoides
Limnoria sellifera Cookson et al., 2012
Sellifera
Limnoria septima
Barnard, 1936
Septima

Limnoria sexcarinata Kühne, 1975 ○  (長崎県対馬列島竹敷、鹿児島県奄美大島古仁屋)
Sexcarinata
Limnoria simulata Menzies, 1957
Simulata
Limnoria stephenseni Menzies, 1957
Stephenseni
Limnoria sublittorale
Menzies, 1957
Sublittorale
Limnoria torquisa Cookson, 1991
Torquisa
Limnoria tripunctata Menzies, 1951 (pdf)  ○?
Tripunctata
Limnoria turae Castelló, 2011
Turae
Limnoria tuberculata
Sowinsky, 1884 ○? (フクレキクイムシ)
Tuberculata
Limnoria uncapedis Cookson, 1991
Uncapedis
Limnoria unicornis
Menzies, 1957
Unicornis
Limnoria zinovae
(Kussakin, 1963) ○  (キタモズミキクイムシ、北海道国後島)
Zinovae


木材食で、海に流れついた樹木やマングローブの気根などを食べる。海藻や海草や海綿やコケムシを食べることもある。

北極~赤道~南極のあらゆる海域にいる。浅い海に多いが深海にもL. borealis、L. foveolata、L. emarginata、L. hicksi、L. japonica、L. magadanensis、L. reniculus、L. septima、L. sublittoraleなどがいる。

低塩分に弱く淡水域にいない。


腹尾節に独特の紋様を持ち、これにちなむ名前がつくことが多い。

一部は人名と地名がついている。

昆虫のキクイムシもお尻の紋様が種によって違うらしく、オスが同種のメスを見分けるためだと先生に聞いた。

しかも、日本のキクイムシは Limnoria lignorumLimnoria japonica の報告が多いが、ほぼ誤同定と言っていた。




Limnoria foveolata、L. raruslima、L reniculus、L. sublittorale、L. indica、L. saseboensisは第5腹節と腹尾節に、縦に2本の平行した隆起がある。

前者4種は腹尾節の縁に小さい瘤が並ばない。



よく似るLimnoria saseboensisLimnoria indicaの違い

Cookson LJ. Vic MDC. 1997. Additions to the taxonomy of the Limnoriidae. Memoirs of the Museum of Victoria 56, 129-143.

2種とも浅海の木材に見られ、L. saseboensisは温帯に生息し、L. indicaは熱帯から亜熱帯に生息する。

saseboensisは腹尾節の表面にたくさんの小さな窪みがはっきり見られる傾向があるが個体差が激しい。

どちらも性的二型があり、メスは見分けにくい。

種間で腹尾節に若干の違いがある。


L. saseboensisは腹尾節中心の2本の平行線の上にオスは0、2、4個(一部はこの平行線の外側にさらに2個の瘤がある)、メスは2個の瘤がある。L. indicaのオスは必ず4個あり、メスは2個ある。

L. saseboensisのオスは、4個の瘤がある場合、前方の2個と後方の2個の間の距離は前方の2個の間の横幅の距離以上の長さとなるが、L. indicaのオスは縦より横が長い。

L. saseboensisは腹尾節の側面中央の縁が強く隆起するが、L. indicaは弱いかない。

大半のL. saseboensisは腹尾節の側面の隆起に接するようにリング状の隆起があるが、L. indicaの多くはリングの一部が欠ける。

L. iindicaよりL. saseboensisの第5腹肢内肢は円みを帯びる。











人名と地名から名づけるのはなるべくやめてほしい。人名じゃ訳が分からない。

地名は朝鮮半島以外にも分布するチョウセンヒメフナムシみたく、分布域によっては混乱するし。

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2015年8月21日 (金)

セルラーゼを自分で合成できるキクイムシ

地球上の全バイオマス(生物の量)のうち、最大の割合を占めるのがリグノセルロース(lignocellulose)である。

リグノセルロースとは、植物の細胞壁の主成分である。



セルラーゼ(セルロースを分解する酵素)を持つ生物

セルロースを栄養源にするのはとても難しい。人間もセルロースを消化できない。

しかし、セルロースを多く含む木材を食べるシロアリは、おなかに住む共生細菌に分解させている。

理化学研究所が、過去にシロアリのセルラーゼについて研究していた。

詳しくはWikipediaの草食動物のページへ。



バッタは細菌がいないので、セルラーゼがなく、消化できないらしい。
Pb036504
オンブバッタ



ほとんどの昆虫は、共生細菌に頼ることで木材を分解している。




細菌に頼らないキクイムシ

キクイムシは海底に沈んだ木材を食べているダンゴムシの仲間。

Imgp68572
キクイムシ



磯でぼろぼろに穴が開いた木材を拾って砕くと見つかる。

フナクイムシと同居している。



キクイムシは自分自身でセルラーゼを分泌しているらしい。

セルラーゼ酵素の遺伝子は、細菌から水平伝播によって取り込んだらしい。

キクイムシはセルラーゼを持っているおかげで、木材で生きていける。

腐食食者だった海産ダンゴムシがセルラーゼを獲得して木材食に特化することで、キクイムシへと進化したんだと思う。



(追記)

と思ったが、等脚類はミズムシからダンゴムシ、ワラジムシまでセルラーゼを持っているらしい。

Bredon, M., Herran, B., Lheraud, B., Bertaux, J., Grève, P., Moumen, B., & Bouchon, D. (2019). Lignocellulose degradation in isopods: new insights into the adaptation to terrestrial life. BMC genomics, 20(1), 462.



キクイムシの腸内

Molecular insight into lignocellulose digestion by a marine isopod in the absence of gut microbes (2010)

セルラーゼを出す細菌に頼らないため、キクイムシの腸内に細菌はほとんどいない。

木材をエサにするために多様な細菌や真菌を腸内に持つ、下等シロアリ、キクイムシ(昆虫)、クワガタなどの昆虫と対照的。



キクイムシの胃腸の中は木材が詰まっている。

胃を通過すると、Hepatopancrea と呼ばれる臓器から出るGH family タンパク質やhemocyaninなどの消化酵素と混ざり、腸内で分解される。

hepatopancrea と腸管の接合部には筋肉でできたフィルターがあり、腸管からhepatopancreaに食物が逆流しないようになっている。






植物バイオマスを分解し、糖に変え、燃料にしようという研究がある。

ただ、この手のセルラーゼを使ったバイオ燃料の研究は、かなり難しいと聞く。植物を分解する過程で多くのエネルギーが必要となり、それを上回るエネルギーを回収するのが厳しいらしい。いまだに経済的なセルロースエタノール製造技術は開発されていない。

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2015年4月10日 (金)

甲羅に生き物がくっついているキクイムシ

鹿児島県の大隅半島の大泊キャンプ場そばの海岸に行った。

海に沈んだ木材にはキクイムシ(ワラジムシ目)がいる。

キクイムシは木を食べている。



色がついたキクイムシ

木材を拾ってキクイムシを捕まえた。

腹尾節に色がついていた。

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5つの黒い斑点がある。



ラッパムシ(Heterotrichida)の仲間が甲羅に付着しているらしい。

Marine Wood Borers in British Columbia
(pdf注意)

の40ページに書いてある。

ラッパムシは動物や植物の体表にくっついたり、水中を泳いだりしている。



ラッパムシ?のついたキクイムシ



この原生動物は、特に害はなく、表面にくっついている。

プランクトンや藻類、有機物を食べている。

他に、「腹肢の剛毛には漏斗目(chonotrichida)という原生生物がいることがある。」と書いてある。



(追記)

調べたらラッパムシの害はあるようで、ラッパムシがつくとキクイムシの食べる量が減るようです。

Delgery, C. C., Cragg, S. M., Busch, S., & Morgan, E. A. (2006). Effects of the epibiotic heterotrich ciliate Mirofolliculina limnoriae and of moulting on faecal pellet production by the wood-boring isopods, Limnoria tripunctata and Limnoria quadripunctata. Journal of experimental marine biology and ecology, 334(2), 165-173.

Mirofolliculina limnoriaeがつくことでキクイムシのする糞が減少すると書いてある。




ゴカイを乗せたコツブムシ

以前に甲羅に生き物をのせたコツブムシを見たことがある。


イワホリコツブムシ?
Imgp2719
腹尾節にウズマキゴカイがくっついている。

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2014年10月 8日 (水)

ペットのサソリ、キクイムシ

三浦半島で捕まえたキクイムシの子どもが生まれた。

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エサがなくて、海水中をキクイムシが泳ぎ回っている。

海岸が近くにないので、エサが手に入らない。餓死するかも。



サソリが大きくなってきた。

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コオロギを食べるマダラサソリ

サソリの目がより目だ。スナモグリみたい。

そろそろ冬なので、エサが手に入らない。餓死するかも。

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2014年7月 9日 (水)

キクイムシに共生するミズムシ、木に穴を掘るダンゴムシのなかま

「ウオノエ」とよばれる寄生虫は、ダンゴムシの仲間である。

魚の体に口を刺し、体液を吸っている。

寄生でなく片利共生するダンゴムシの仲間もいる。




キクイムシ
(ダンゴムシの仲間)

海にいくと、穴だらけの木材がある。

フナクイムシという貝の喰い跡である。

キクイムシも、いるときがある。

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キクイムシ




キクイムシと共生するミズムシ

キクイムシが食べた木に、ミズムシのCaecijaeraが住むことがある。

このミズムシはキクイムシが掘った穴のかべにつく、子嚢菌や担子菌を食べているらしい。

この菌類は海水中の木材をたべている。

キクイムシがつくことで、菌の増殖が促進されるといわれる。



キクイムシは、木材にさまざまな菌を繁殖させているようだ。

Thiel, Martin. "Reproductive biology of Limnoria chilensis: another boring peracarid species with extended parental care." Journal of Natural History 37.14 (2003): 1713-1726.




木に穴を掘る海のダンゴムシ

キクイムシ亜目とコツブムシ亜目は木に穴を掘る。


キクイムシは、熱帯から北極ちかくまでいる。海水から汽水域にいる。木材を食べる。
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とても小さい



コツブムシは、熱帯から温帯までいる。海水から淡水域にいる。木にできた穴にすみ、海水中のプランクトンをこして食べるフィルターフィーダーである。

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木材に穴を開けているコツブムシ

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引っ張りだして撮影した写真






宮城県石巻市北上町橋浦の北上川汽水域の北上大橋付近での調査の記録にコツブムシがいた。

http://www.shiokaze.biodic.go.jp/PDF/h24report/h24_report_06.pdf(リンク切れ)

↑ここのサイトにコツブムシの写真がある。

59ページに「Limnoria属の一種と思われる」と紹介されている写真がある。

これはコツブムシの一種(おそらく Sphaeroma 属)。



Limnoria属(和名キクイムシ属)はキクイムシ亜目の一属である。

勘違いしていると思う。

 

 

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2014年5月14日 (水)

ダンゴムシの仲間は2回に分けて脱皮する

ダンゴムシの仲間(ワラジムシ目、等脚類)は脱皮動物である。

脱皮する時、後ろ半分→前半分、と2回に分けて脱皮する。

英語では「biphasic molting」という。「posterior →anterior」で二相性。


この二相性脱皮はワラジムシ目のみで見られる珍しい行動である。

他の甲殻類のエビ、カニ、ヨコエビは脱皮を1回で終わらす。


ダンゴムシが脱皮をする理由は「成長のため」「繁殖のため」の2つがある。

脱皮すると体が大きくなる。繁殖期のメスは脱皮と同時に排卵する。

詳しくはダンゴムシの生殖脱皮、生理周期、求愛: だんだんダンゴムシで。



脱皮の時系列

1.最初に表面がうっすら浮き上がる。

全体的に白っぽくなることがある。触ると少し柔らかく感じる。
Imgp2887
このとき甲羅の成分であるカルシウムを再吸収して後ろ半分から前半分へ移動させるため、

体の腹側の前半分にカルシウム斑ができる。


2.後ろ半分を脱ぐ。
Photo
コシビロダンゴムシの後ろ脱皮直前

どのワラジムシ目も第4胸節と第5胸節が境目となる。


Imgp2511
コシビロダンゴムシの後ろの脱皮殻


3.数日かけて後ろ半分がかたくなる。

成長したせいか、後ろ側が太くなったように見える。

前方のカルシウムが後方へ送られ、カルシウム斑が消える。


4.前半分が白くなり、前側を脱皮をする。
Photo_2
コシビロダンゴムシの前半分の脱皮直前


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オカダンゴムシの前半分の脱皮殻



脱皮直前に柔らかくなるのは、古い甲羅を溶解→吸収→新しい甲羅に再構成しているからだと思われる。

これによって、脱皮で失う栄養分をなるべく少なくしていると考えられている。

ちなみに、三葉虫はこれができないらしい。

脱皮動物によく見られることだが、抜け殻もすぐに食べて栄養源にする。



ダンゴムシの甲羅の構造は土と生き物: Hornungの1を見て下さい。

さらに細かい時系列は以下に書いた。

ワラジムシの脱皮のステージ、二回脱皮の理由: だんだんダンゴムシ



海に住むダンゴムシの仲間の脱皮

ダンゴムシの仲間であるワラジムシ目はほぼ全て2回にわけて脱皮する。

ワラジムシ、フナムシ、コツブムシ、ヘラムシ、ミズムシ、オオグソクムシ、ダイオウグソクムシなど。


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後ろ半分を脱皮中のキクイムシ



脱皮を一発で終わらす例外の種類

例外は、ヘラムシ亜目で南極周囲にすむヤリボヘラムシ トガリヘラムシの一種Glyptonotus acutusである。

NHKのサイトにこのヘラムシの動画がある。


Robert Y George, 1972, Biphasic moulting in Isopod Crustacea and the finding of an unusual mode of moulting in the antarctic genus Glyptonotus

この種は、体全体を一気に脱ぐことで、脱皮を一回で終わらす単相性脱皮である。

この種は南極固有。Glyptonotus 属自体も、南極に2種、北極に1種しかいない。


(追記)さらに調べたら、脱皮を一回で終了する種類が他にもいた。

フナムシ、エビヤドリムシの特殊な脱皮(単相性脱皮)



「なぜ脱皮を前後2回に分けるのか?」を考えた

脱皮を2回に分ける理由はわかっていない。

同じ甲殻亜門に属する十脚目(エビ、カニなど)や端脚目(ヨコエビ、ワレカラなど)などは1回で脱皮を終わらす。

ダンゴムシと体が似ているヨコエビとも脱皮の仕方が違う。


周囲の環境やエサの量によって、脱皮は延期することが可能である。

生理学的には前半分だけが後ろ半分より遅れて脱皮しているのだと思う。

上のトガリヘラムシの論文では、ホルモンが前半分だけ遅れていると予想している。


なぜこの進化がワラジムシ目に定着したのだろう?

南極のトガリヘラムシの論文には、「背甲がないから」「南極という特殊な環境だから」とあったが、

納得がいかないし、さすがに違うかな。


単相性脱皮が不利な点として

全部の脚(殻)が弱くなり、敵から逃げにくくなる
一気に多くのエネルギーを使うから、死にやすい
うまく脱げず、脱皮に失敗しやすい

などが思いついた、がなんか微妙…

半分脱皮と全部脱皮の間で、被捕食率、死亡率、脱皮失敗率に差はある?


なんとなく、カルシウムを失わないように二相性にしている気がしている。

エビなどは再吸収するカルシウムを胃などに蓄積するが、脱げてしまう皮膚には溜められない。

たぶん胃だけでなく皮膚など体半分全体にカルシウムを蓄積できる二相性脱皮は、脱皮による損失が抑えられるのだと思う。

ワラジムシの脱皮のステージ、二回脱皮の理由: だんだんダンゴムシ



どこかのホームページで

>固まっていない表皮から水分が抜けてしまうから、乾燥を抑えるために2回に分ける。

と書いてあったが、

ワラジムシ目の祖先は海で進化したので、「乾燥」は理由にならない。


ダンゴムシの仲間だけに見られる特殊な二相性脱皮についてのレビュー

Sahadevan AV, TA, JP, Kappalli S. 2022. Biphasic moulting in isopods confers advantages for their adaptation to various habitats and lifestyle. Biologia, 1-15.

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2014年4月16日 (水)

ダンゴムシやワラジムシの外来種がブラックリストに載るかも

外来種のダンゴムシがたった100年で、ものすごいスピードで広がった話を書いた。

ダンゴムシの歩ける距離が短すぎる。: だんだんダンゴムシ



日本にはダンゴムシやワラジムシの外来種が、いっぱい入ってきている。

家の周りによくいるダンゴムシは、外来種の「オカダンゴムシ」であるのは有名な話。
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オカダンゴムシ Armadillidium vulgare



オカダンゴムシは、もともと日本にいなかった。

ヨーロッパの地中海から、船に乗って明治時代に来たと言われている。

日本に元からいるダンゴムシは、コシビロダンゴムシとハマダンゴムシである。



人家の近くにいるのはオカダンゴムシで、コシビロダンゴムシは在来種だがあまりいない。

今のところ外国のハマダンゴムシが日本にやってきたという情報はない。




オカダンゴムシ、コシビロダンゴムシ、ハマダンゴムシの見分け方

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オカダンゴムシ 扇形


Imgp26492_3
コシビロダンゴムシ ひょうたん型


Imgp4949
ハマダンゴムシ 長方形型



おしりの尾節の形が違う。慣れると模様で見分けがつく。

さらに、白体甲羅の裏側でも違うところがある。




その他の外来種

オカダンゴムシは日本全国に広がってしまった。(分布について

対馬や隠岐のような離島でも見た。観葉植物経由かな?

新たに、ハナダカダンゴムシという外来ダンゴムシも横浜、神戸周辺から広がりつつある。



ワラジムシ Porcellio scaber も外来種である。
Imgp6964
オカダンゴムシとワラジムシ



ワラジムシも拡大傾向にあると言われている。

他の外来ワラジムシとして、ナガワラジムシ、クマワラジムシなどが確認されている。

都市部では、日本にもともといる在来種のワラジムシもいるが、外来種のワラジムシもよく見る。




外来ダンゴムシ類の規制

今のところ、この外来ダンゴムシ、ワラジムシに対する規制はない。

しかし、安心はできない。

「生物多様性国家戦略2012-2020」の中で、特定外来生物以外で、生態系に被害を及ぼす侵略的外来種についてリストを作成することが目標として定められた。

リストは2014年夏に策定される予定である。



その侵略的外来種の検討対象に、ダンゴムシとワラジムシを合わせて7種も入っている。

オカダンゴムシ
ハナダカダンゴムシ
ワラジムシ
クマワラジムシ
ホソワラジムシ
ナガワラジムシ
オビワラジムシ

このリストは、外来種対策の情報提供のようなものみたいだから、もし掲載されても「排除しなければならない」というわけではなさそうだけど、

何らかの対策はとられるかもしれない。

(環境省のホームページ見ても、リストつくってどうしたいのかはっきりわからなかった。)



゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

追記

策定されたリストに入っていないようです。

我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト (生態系被害防止外来種リスト)

アメリカザリガニやセアカゴケグモは入っている。

゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。



今のところ日本では、外来ダンゴムシやワラジムシが侵略的であるかどうかはわからない。

イギリス領セントヘレナのゴフ島に侵入したワラジムシが、島固有のクキワラジムシの一種 Styloniscus australis を駆逐している事例はあった。

侵略的外来種専門家グループ(ISSG)のサイトに書いてあった。

離島のダンゴムシやワラジムシは調べられていないから、日本のどこかで在来種を圧迫しているのかもしれない。

知らないところで侵略が起きていたら怖い。



このリストに載っていないが、在来ダンゴムシや海のダンゴムシも気になる。

(海のダンゴムシは候補にのってました。ツノオウミセミの一種(Paracerceis sculpta)が大阪湾で確認されたことがあり、候補種になっている。

穿孔性のコツブムシ Sphaeroma quoianum も載っている。)



リストには国内外来種も載せる予定らしい。

在来ダンゴムシも国内で色々いるので、国内外来種が生じるリスクがある。



むしろ、在来種のダンゴムシ間の方が、種間の生息環境が似通っているので、在来と棲み分けが多少確認できるオカダンゴムシよりも危険性が高いと思う。

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コシビロダンゴムシ

国内の違う地域からコシビロダンゴムシが持ち込まれたら、元からいたコシビロと競争しそう。

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